Q.質問
民事訴訟において、勝訴敗訴の如何を問わず、依頼した弁護士の弁護士費用は依頼者が負担するものだと聞きますが、どのような場合でも依頼者負担となり相手方に負担させることができないのでしょうか。
A.回答
民事訴訟の判決では、「訴訟費用」を原告、被告にどのように負担させるかも判断されますが、この「訴訟費用」は裁判所に納めた印紙、切手、鑑定費用等であり、弁護士費用は含まれません。弁護士費用は、訴訟当事者がそれぞれの弁護士との委任契約に基づいて負担するものであり、基本的には勝訴しても相手方に負担を求めることはできないのです。
ただ、判例上、2つの例外があります。
1つは、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起せざるを得なかった場合です。相手方の故意又は過失によって自己の権利を侵害されたにも拘わらず、相手方から容易に損害賠償を受けることができず、訴えを提起せざるを得ない場合、事案の難易、請求額、認容された額、その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内に限り、不法行為と相当因果関係に立つ損害として相手方に負担させることができます。具体的には、裁判所が相当と認めた損害額に、その損害額の10%程度の額が、弁護士費用という名の損害として、さらに付加されるのが一般的です。
もう1つの例外は、使用者の安全配慮義務違反により労働者が健康被害を受け、損害賠償請求訴訟を提起せざるを得ない場合です。労働契約上、使用者は労働者が安全に働くことができるように配慮する義務を負っています。使用者がこの義務に反することは、労働契約上の債務不履行であり、必ずしも不法行為となるものではありません。しかし、労働者が使用者に対し、安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を行なう場合、その労働者において安全配慮義務の内容を特定し、義務違反に該当する事実を主張立証せねばならず、不法行為に基づく損害賠償請求と同様、弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型の訴訟に属します。そこで上記不法行為に基づく損害賠償請求訴訟と同様、弁護士費用も相当と認められる範囲内のものに限り、安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害として相手方に負担させることができるとされています。
困難な訴訟は不法行為や労働災害に基づく損害賠償請求訴訟だけではありませんが、今のところ、相手方に弁護士費用の負担をさせることができるのは上記2つの場合だけです。