Q.質問
私と両親はずっと市営住宅で生活してきました。私は結婚して現在は別のところに居住しています。両親が亡くなったときには便利な場所でもありますので、帰ってきたいと思っています。
相続人の私が使用権ないし利用権を承継出来るでしょうか。
A.回答
市営住宅を含めて公営住宅については、公営住宅法の適用されるものの、借地借家法、民法の適用があってもよいのではないかという議論がありました。
そうしたところで、昭和59年12月13日の最高栽の判決があり、公営住宅には借家法と異なり、公営住宅法や条例の適用があり、制約はあるものの、事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定されたのちには、基本的には私人間の賃貸借契約における信頼関係の法理を認め、入居者が公営住宅の明渡し事由に該当する行為をした場合であっても、賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは認めがたい特段の事情があるときには、事業主体の長は当該使用者に対し、その住宅の使用関係を取り消し、その明渡を請求することはできないものと解するのが相当として限定的にではありますが、借家法、民法の適用をみとめたものがあります。
ご質問では、公営住宅の入居者が死亡した場合、使用権ないし利用権の相続が可能かということですが、この点について、最高裁判所は平成2年10月18日「…公営住宅の入居者が死亡した場合に、その相続人は、その使用権を当然に承継するものではない。」と判決しました。
これは公営住宅法1条で「この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。」としていることや、公営住宅の使用関係については、公営住宅法や条例で管理に関する規定を定め、家賃の決定、修繕義務、入居者資格等について規定している。
これらの特別法たる公営住宅法の趣旨から、相続による当然承継を否定しました。
従って、市営住宅の相続による承継を主張するのは無理ですから、条例に基づいた承継手続きをすべきでしょう。