Q.質問
私は所有する家屋をAさんに貸しています。
古い家なので、家賃を近隣と比較してかなり安くしています。
去年の大型台風で、屋根や壁の一部が破損しました。Aさんは私に修理を求めるのですが、修理代が家賃の何十倍にもなり、とても応じることが出来ません。
このような場合でも貸主に修理義務があるのでしょうか。
A.回答
まず、建物の貸主には賃貸借契約の目的に従った用法で、賃借人が使用収益することができるようにする義務があります(民法606条1項)。
賃貸借契約の目的に従った使用が出来ない場合に家主にはその障害を取り除いて、賃借人に使用させる義務で、これは賃料が高い、安いにかかわりなく生じるものです。とは云うものの、物理的、経済的に不可能なような場合にはこれらの義務は無いというのが通説となっております。さらに、家賃に比べて過大な修繕費用がかかるような場合には当事者間の経済的な公平の見地から修繕義務の範囲を制限すべきであるともいわれています。
東京地方裁判所の平成3年5月25日の判例で見ますと、家賃の3年分にあたる修繕費用を要した事案で、家主の修繕義務を認めたうえで、「修繕といっても新築同様の程度まで建物を修繕すべき義務はないとし、その修繕に多額の費用を要する物のうち、現状のままでも賃借人側の受ける損失の小さいものにあっては、貸借人において甘受しなければならないものもある。」としたものがあります。
上記の判例は3年分の家賃に相当する修繕費を要するものでしたが、貴方の場合も新築又は、それに近い修繕費とは云えず、修理義務があると判断される可能性が強いようですが、大変な修繕費用がかかり相当無理があると云えます。こうした場合家賃を値上げして修繕費の回収を図る方法がありますが、相当大幅な家賃値上げになるものと思われますから、Aさんにそれを納得してもらえるか疑問です。
充分話し合ってみる必要があります。折合がつかなければ、建物は朽廃に瀕していて、修理費を過大に要し、その負担が困難であるという理由を正当事由として賃貸借契約の解約の申し入れをしてみては如何でしょうか。