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入居時の大修繕の費用 -必要費の返還と特約の有無-

Q.質問

私は五年前からAさんに建物を借りて住んでいます。かなり古い建物でしたので、入居時に屋根の小修理、床板の張替え、畳の取替え等を行いました。
 この度引っ越すことになりましたが、入居時に支出した費用は返還してもらえるのでしょうか。
 Aさんは契約書に費用の償還義務は負わないと書いてあるというのですが…

A.回答

  民法は必要費について、「・・賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる(608条)」としています。必要費とはどんなものかが問題となりますが、裁判例は「必要費とは単に目的物の現状を維持し、又は目的物の現状を回復する費用だけをいうものではなく、通常の用法に適する状態において目的物を保存するために支出する費用をも包含する」としております。賃貸人は賃借人に賃貸物件を引渡す際は使用収益に支障のない完全なものを引渡す義務があります。貴方の場合、使用収益に適した状態にするために支出した費用ということが出来ますので、貴方が入居に際して支出した費用は必要費ということが出来ます。
なお、必要費は「直ちに請求できる」とありますが、直ちに請求しなければならないわけではなく、建物を明渡した後1年以内に請求すればよいことになっております。

 ところで、民法608条の規定は任意規定と云いまして、当事者間でこれと異なる特約を定めることが出来ます。即ち、賃貸人は必要費ないし有益費の償還義務を負わないとする特約です。この特約があれば、賃借人は必要費を支出しても、その償還請求が出来なくなります。

 貴方が入居時に契約目的に従った使用、収益が出来るようにするために必要費を支出した。こうした場合、家賃が安くなったという合理的な理由がある筈ですが、こうした合理的な理由もないような場合は特約の効力を争うことも可能であろうと考えます。

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