Q.質問
金物屋を営んでいた父は、店の運転資金として銀行から1千万円の借入れをし、返済しないまま亡くなりました。父名義の店も借金の担保に入っています。
兄が店を継ぐことになり、母と私はいくらかの金をもらい、父の財産は兄が全部取得し、借金も引受けることになりました。私と母は銀行から請求されることはないでしょうか。
A.回答
相続が開始すると同時に、被相続人であるお父さんに属していた一切の権利義務は、相続人に承継されます。そこで、相続人間で遺産の分割について協議し、遺産分割協議書を作るのが通例です。
それでは、債務についてはどうなるでしょうか。相続債務については、①相続分に従って当然に分割承継されるとする当然分割説、②遺産分割までは分割前の相続財産を引当とする合有的債務とともに各相続人の固有財産を引当てとする個人的分割債務を負担するとする合有説、③遺産債務はその性質上、不可分なものと解されるから、共同相続人は不可分的に債務を負担するとする不可分説があります。判例や家庭裁判所の実務は分割説によって処理されているようです。
不動産や預金、株券等の相続財産は遺産分割協議で合意するとそのとおり承継することができます。ところが、相続債務については、協議によって、相続人の一人が全部を負担するものとしても、お父さんが亡くなられると、相続分に従って当然に分割されていますから、債権者が債務引受けとしてこれを承認しない限り対抗できません。遺産分割協議書で定めても、それは相続人間の内部文書に過ぎないのです。このようなことで、家庭裁判所は相続債務については遺産分割の対象から除外するという取扱いになっているようです。
しかし、お兄さんが銀行に掛合って、担保も設定していることと、店も引継いで経営していくということで説明すれば、銀行も承諾してくれる可能性があります。銀行が承諾して債務をお兄さん一人で負担する(免責的債務引受)ことを承諾すれば、貴方やお母さんは銀行から請求されることはありません。しかし、銀行抜きで協議しても、銀行から請求があれば、貴方やお母さんは請求を拒むことはできませんから、借金の相続分は払わなければなりません。この場合、お兄さんとの約束に基づいて、支払った額をお兄さんに求償するということになります。