質問
私(21歳)は、5年前に亡き祖父の遺言により祖父の土地を遺贈されました。その後、私の父が、自分が経営している会社の債務を担保するために、私の土地に抵当権を設定していることを知りました。私がお金を借りたわけでもないのに私に無断でこのようなことをするのは親として許されるのでしょうか。私の土地の抵当権を外してもらうことができるかも含めて回答をお願い致します。
回答
未成年者は親権に服します。親権者は子を監護教育する権利義務とともに、子の財産の管理権や法律行為の代理権を有しています。管理権の対象となる行為は、保存・利用・改良行為のみならず処分行為も含みます。抵当権の設定は処分行為にあたります。従って、親権者が子の財産に抵当権を設定することは親権者の管理権に含まれているのです。
しかし、管理権の行使により、親権者と子の利益が相反する場合には、親権者は子を代理することはできず、親権者に変わって子のために代理権を行使する特別代理人の選任を家庭裁判所に求めねばなりません。
利益相反行為か否か、判例は、専らその行為自体または行為の外形から客観的に判断すべきであるとしています。外形から知り得ない親権者の動機や目的を考慮に入れると、親権者が子を代理して第三者と取引をする場合に、第三者に不測の損害を及ぼすおそれがあるからです。但し、親権者による代理権濫用の場合(外形的には利益相反行為でなくとも、子に損害を及ぼすおそれのある行為の場合)は、相手方が親権者の代理権濫用の事実を知り、あるいは知ることができたときには、その行為の効果は子に及ばないとして子の保護をはかっています。
ご相談者のケースでは、親権者であった父と父の経営する会社は別人格ですので、会社の債務の担保としてご相談者の土地に抵当権を設定することは、形式的には利益相反行為にはあたりません。ただ、例えば会社が既に回復の見込みのない債務超過状態で担保不動産の売却以外には債務返済が不可能である等、本件抵当権設定が子の利益を無視して会社の利益を図ることのみを目的としてされた場合には代理権の濫用にあたりますので、抵当権者が、この濫用の事実を知り、あるいは知ることができた場合には、無権代理行為とみなされることになります。この場合には、成人されたご相談者は、抵当権者に対し、抵当権設定登記の抹消を請求することができます。
なお、父が会社の債務の保証人である場合は、親権者である父と子の利益が外形上明らかに相反しますので、父の抵当権設定行為は利益相反行為であり無権代理行為です。ご相談者は抵当権設定登記の抹消を求めることができます。