定年退職後の68歳になる患者さんの奥様が来られ、最近、旦那様の飲酒量が増え、時には飲酒運転をしているようで、飲酒を止めさせられないかということでした。退職後、自由な時間が増えたこともあって、昼間からお酒を飲むようになり、多い時は1日で一升瓶を空けるほどで、酔ってけがをしたり、失禁することもあるとのこと。もともと「糖尿病」があり、飲酒のため、血糖のコントロールも良好ではありません。「アルコール依存症」ではないかとのご相談です。
☆高齢者のアルコール依存症の特徴とは
アルコール依存症の中で、高齢者の割合が急激に高まっています。特に男性は、退職して自由な時間が増え、お酒を日中から飲むようになり、気づいたときにはアルコール依存症だということがよくあります。
1.アルコール依存症を疑うサインがあります
アルコール依存症を疑う高齢者に特有の酔い方があります。「少量でも酔い方がひどい」「飲むとよく転倒する、けがをする」「飲酒後失禁する」があげられます。この他、「家に閉じこもりがちになる」「身だしなみを気にしなくなる」「栄養状態が悪い」といったこともアルコール依存症を疑うサインです。思い当たることがあれば、アルコール依存症の診療を専門にしている医療機関や精神科を受診しましょう。
2.アルコール依存症の治療
治療の基本は断酒です。飲酒量を減らすのではなく、飲まないことが重要です。再び飲酒を始めると、ほぼ間違いなく元のひどい飲み方に戻ってしまうため、生涯断酒を続けなければなりません。アルコール依存症と診断されたら、年齢にかかわらず一定期間入院し、退院後もしばらく通院するのが一般的です。
・高齢者の場合治療効果が高い
実は高齢者はアルコール依存症の治療効果が高く、断酒の成功率が他の年代と比べて高いという報告があります。高齢者は、入院中に自身の健康のために断酒が必要であると学ぶ努力ができる人が多いようです。
その他、仕事のつきあいで飲む機会が少なくなっていることや、加齢によって飲酒への欲求が減っていることも、高齢者が断酒しやすい理由といえるでしょう。
・再び飲酒してしまうタイミングで多いのは、退院直後です。退院したからといって気を抜かずに、断酒を続けることが重要です。
3.アルコール依存症以外の体の治療
多くの患者さんは飲酒のために、様々な体の障害や離脱症状が現れているので、まずはこれらの治療が必要です。
血中アルコール濃度が高い状態が続くと、「肝機能障害」「高血圧」「脳梗塞」などを引き起こすことがあります。これらに加えて、高齢者の場合は脳や神経にアルコールの影響が出やすく、「認知症」や「脳萎縮」が起こることがよくあります。また、「糖尿病」などにも悪影響を及ぼします。まず、各々の治療を受けるべきです。
4.心理社会的治療
心理社会的治療は、断酒への理解を深めるための重要な治療です。具体的には、
・「個人カウンセリング」
・「小グループによる集団カウンセリング」があり、最近、集団カウンセリングの方法として、思考や行動のパターンを見直し、修正する「認知衝動療法」がよく行われています。
・また、自己の飲酒や断酒にまつわる様々な体験を語り合い、断酒に導く「自助グループ」への参加も勧められます。これらによって自分自身を見つめ直し、断酒の必要性を理解していきます。
今回は、高齢者のアルコール依存症についてご紹介しましたが、心理社会的治療に関しては断酒専門医にご相談ください。