昨年10月末、日頃胃カメラ検査でお世話になっている病院で当院患者さん2人が、バレット食道と診断されました。あまり、知られていない病名ですが、癌化も考えられると言われました。食道の粘膜は、健康な状態では扁平上皮と呼ばれる組織形態をとっています。しかし、食道の粘膜が慢性的に胃酸にさらされると、胃から連続的に円柱上皮と呼ばれる組織形態(バレット上皮)に変化してしまうことがあります。この上皮をもつ食道をバレット食道と呼び、食道腺癌に移行することがあります。
☆バレット食道の危険因子とは
(1)胃食道逆流症:酸逆流症とも呼ばれ、胃酸が定期的に食道に逆流する状態をさします。この過程で食道は障害を受けます。最も一般的な症状は胸焼けです。
表面を覆う細胞は長期にわたるこの酸逆流の結果、変化を起こします。
(2) 肥満:肥満もバレット食道の危険を増加させます。肥満した人は胃食道逆流を起こしやすいためです。種々のメカニズムで食道腺癌の危険因子にもなります。
☆バレット食道患者の食道腺癌
発生率
ここに、デンマークで発表されたデータがあります。数百人規模の、決められた一定の施設でバレット食道患者を経過観察し、その患者の食道腺癌発生率をみると、年間0・5%前後とされてきました。しかし、もっと大きな一般集団での調査を行ったところ、バレット食道患者の腺癌発生率は年間0・12%と、これまでの報告と比べ数倍低いと報告されています。この論文以外にも、最近の研究報告の傾向として、バレット食道患者の腺癌発生率は、当初の指摘より低いと言う報告が多いようです。つまり、多くのバレット食道と診断された患者さんが食道癌になる確率は低いようです。しかし、かと言って安心して放置するのではなく、バレット食道の患者さんは、定期的な医師の診察と検査を受けるべきです。
食道癌は食道の悪性腫瘍の代表的な病気です。日本における食道癌の90%以上は扁平上皮から発生する扁平上皮癌で、胸部中部から下部食道に多く発生します。欧米ではこの30年ほどで、扁平上皮癌の頻度が減少し、バレット上皮から発生する腺癌が食道癌の多くを占めております。日本でも今後腺癌が増加する可能性がありますが、まだ疫学的にみてもはっきりと増加しているとは言えない状況です。
☆バレット食道の診断と検査
現在、バレット食道そのものに対する有効な治療法はありません。又、バレット食道からの発癌を抑制する有効な方法もありません。しかし、逆流性食道炎は容易に診断できますので、バレット食道癌を早期発見するためには、バレット食道を確認することが重要で、それには内視鏡検査が必要です。つまり、胸焼けなどの逆流性食道炎の症状のある方はまず内視鏡検査を受け、バレット食道の有無を診断してもらうことが第一です。そして、バレット食道と診断されたら、なるべく早く異型上皮や食道癌への進展を発見できるよう、消化器専門医の定期的な内視鏡検査と生検を受診すべきでしょう。