「朝からほぼ毎日頭痛があり、薬を飲むとすっきりしないものの、ひどい頭痛にならずにすんでいる。しかし、時々薬を飲んでも効かず、頭痛が悪化するため、同じ日に3回も4回も頭痛薬を飲んでしまう。それでようやく治っても、次の日になればまた朝から頭が痛い…。このようなことを繰り返してしまう」
これは、ある頭痛クリニック専門医の話にあった、頭痛を訴える患者さんの言葉ですが、当院の外来でも良く聞く内容です。
頭痛もちの人が頭痛薬を過剰に使い続け、本来なら治まるはずの頭痛が逆に以前より悪化する、これを「薬物乱用頭痛」と言います。「薬物乱用頭痛」は、薬の飲み過ぎによって、脳が痛みに敏感になったり、痛みを抑える脳の働きが低下するために起こると考えられています。
「薬物乱用頭痛」と診断される基準
1 頭痛が1ヵ月に15日以上続く。
2 1種類以上の頭痛薬を3ヵ月を超えて定期的に服用している。
3 起こした頭痛は、頭痛薬を服用(乱用)した際に発現したか、もしくは著明に悪化している。
すなわち、1ヵ月に15日以上頭痛のある患者さんが、鎮痛剤やトリプタンなどの急性期治療薬を頻回に使用しているようであれば、「薬物乱用頭痛」の可能性が考えられます。
但し、頭痛以外の痛み(生理痛、腰痛、歯痛、関節痛など)で消炎鎮痛薬を飲む場合は、それが原因で「薬物乱用頭痛」になることはありません。
「薬物乱用頭痛」の治療
1 「薬物乱用頭痛」はアドバイスのみでも77.5%は改善するとの報告があり、まずかかりつけ医か頭痛治療専門医を受診することです。
2 医師の指導で、原因となっている頭痛薬の使用を、1~2週間中止すること(断薬)です。使用を中止すると、一時的に頭痛が強くなり、不安を感じることもありますが、つらい場合は、ストレスを緩和させる抗うつ薬や抗不安薬を使ったり、原因となった頭痛薬とは違う種類の頭痛薬などを使って断薬を継続します。
3 上記の「薬物乱用頭痛」の治療を受けるとともに、もともとの頭痛(片頭痛、緊張型頭痛)のタイプに合った適切な治療によって、「薬物乱用頭痛」の再発を防ぐことができます。
1緊張型頭痛は、基本的に頭痛薬を飲まなくても、首や肩こりを解消することで治りますが、頭痛が強い場合には、筋肉の緊張をほぐす筋弛緩薬や鎮痛薬、抗不安薬などが使われることもあります。
2片頭痛には、効果の高い治療薬(エルゴタミン製剤、トリプタン製剤)を病院で処方してもらえます。しかしエルゴタミン製剤、トリプタン製剤も飲み過ぎると「薬物乱用頭痛」になるので注意が必要です。また、片頭痛なのに緊張型頭痛だと思い、通常の市販薬(消炎鎮痛薬)だけを長期にわたり飲み続けると、「薬物乱用頭痛」になることもあります。基本的にもともとの頭痛(片頭痛、緊張型頭痛)の正しい診断が重要です。
「薬物乱用頭痛」の予後
原因となった頭痛薬を中止することで、約70%の患者さんは改善します。しかし、治療後4年間の調査では、最初の1年間に41%、4年以内に45%が再び薬物乱用となることが報告されています。すなわち最初の半年から1年間の経過観察が重要です。
「薬物乱用頭痛」の患者さんは抑うつ状態や不安神経症などを合併していることも多いので、心療内科医や精神科医との連携も必要です。
日本頭痛学会の「頭痛専門医」について
日本頭痛学会では「頭痛専門医制度」を立ち上げ、頭痛を専門に診察する医療機関が各地に生まれています。「頭痛外来」(あるいはそれに類した医療サービス)を開設する病院は、日本頭痛学会のホームページに掲載されている「日本頭痛学会専門医一覧」で調べられます。
日本頭痛学会
http://www.jhsnet.org/
「薬物乱用頭痛」は頭痛薬の誤った使い方が原因で起こる病気です。大事にならないうちに専門医に相談しましょう。