ここ数年でインフルエンザワクチンの接種が定着しましたが、もう一つ高齢者に有効なワクチンがあります。「肺炎球菌ワクチン」です。「肺炎球菌ワクチン」は、肺炎球菌による感染症を予防するワクチンと説明されています。実際、「肺炎球菌ワクチン」は肺炎の発症そのものを完全に予防することはできません。しかし、肺炎が重症になるのを防ぎ、入院するほどひどくなることや死に至るケースを減らすことができます。ただ、肺炎球菌以外の病原体が原因の肺炎に対しては、「肺炎球菌ワクチン」は全く無効です。したがって「肺炎球菌ワクチン」を打てば肺炎にかからない、ということでは決してありません。
●「肺炎球菌ワクチン」は現在2種類あります
①2歳以上の小児・成人用
肺炎球菌ワクチン
国内で既に承認されている肺炎球菌ワクチンニューモバックスNP(Pneumovax:23価肺炎球菌ワクチン)は、2歳以上の小児・成人を対象にしております。
②乳幼児用肺炎球菌ワクチン
米国で、小児に使用されています。このワクチンの最大の特徴は、2歳以下の小児に対して十分な免疫を付与でき、ワクチンに含まれる型の肺炎球菌による髄膜炎などの重篤な感染予防に有効であるとされています。このワクチンは、日本国内では生産されておりません。(詳細は、ワクチン施行病院にて確認すること。)
●肺炎球菌の感染予防が大事な理由
一言で言うと、肺炎球菌感染は死亡率が高いためです。激烈な場合は数時間のうちに、みるみる状態が悪化し、亡くなってしまうことさえあります。
もちろん、全員が重症になるわけではありませんが、高齢になるほど、また、肺気腫(COPD)をはじめとする慢性の心臓、呼吸器、肝臓、腎臓等の病気をおもちの方で死亡率が高くなります。
●「肺炎球菌ワクチン」は肺炎球菌感染の約80%に効果が期待されています
肺炎球菌には80種類以上の型(タイプ)があります。免疫はこのタイプ別に反応するので、これらすべてのタイプに対する免疫を獲得すれば肺炎球菌の感染対策は万全ですが、現実的には不可能です。
現在日本で発売されている「肺炎球菌ワクチン」(ニューモバックス)は、これらの中から感染する機会の多い23種類のタイプの抗原を含んでいて、肺炎球菌感染の約80%に対して効果が期待されています。
●「肺炎球菌ワクチン」の副作用
注射をした場所の腫れ・痛み・熱感がみられることがありますが、重い副作用の報告は非常に少なく安全性は高いと考えられます。
●ワクチンは1回の接種で約5年間有効、接種のタイミングは?
インフルエンザワクチンの効果は5ヶ月程度しか持続しませんが、「肺炎球菌ワクチン」は1回の接種での免疫効果が約5年持続すると考えられています。ですから毎年接種する必要はありません。(ただ、接種後、免疫(抗体)ができるまで1ヶ月程度の時間がかかります。)しかし、日本では2回目以降の「肺炎球菌ワクチン」の接種は禁止されています。(将来的には再接種が認められる可能性があります。外国は異なります。)
そのため、接種を何歳でするのが良いのか、少し待ったほうが良いのか悩まれるかもしれません。かかりつけ医に相談してください。
●次のような方に「肺炎球菌ワクチン」の接種が勧められています
・65歳以上の高齢者
・心臓や呼吸器に慢性の疾患がある方
・脾臓を摘出した方
・腎不全や肝硬変の方
・糖尿病の方
●「肺炎球菌ワクチン」接種が不適切な方
・過去に「肺炎球菌ワクチン」を接種したことがある方
・免疫抑制剤を使用している方
・明らかな発熱のある方
・2歳未満の方(但し、2歳未満用のワクチンを扱う小児専門病院があります。)
●健康保険の適応について
2歳以上の脾臓摘出の方にのみ健康保険が適用されます。それ以外の方は自費での接種となります。
●「肺炎球菌ワクチン」とインフルエンザワクチンの両方接種
インフルエンザにかかった後に肺炎を発病することがしばしばあります。そのため、「肺炎球菌ワクチン」とインフルエンザワクチンの両方を接種すると、単独の接種よりも高い肺炎の予防効果があります。「肺炎球菌ワクチン」の有効率は約60~80%で、その効果は人によって異なりますが、前述の如く約5年間継続すると言われています。海外データによると、喘息などの慢性肺疾患を持つ高齢者に、「肺炎球菌ワクチン」とインフルエンザワクチンの両方を接種することにより、入院を63%、死亡を81%減少させたとの報告があります。
●「肺炎球菌ワクチン」の公費補助
全国で20ヶ所以上の市町村で「肺炎球菌ワクチン」接種に対する公費補助がされています。詳細はかかりつけ医に相談してください。