交通事故の後遺症として知られる「むち打ち症」患者の中には、頭痛、目まい、手のしびれ、項部痛や立くらみなどの症状で長年苦しむ人が少なくありません。それら症状が長引くと、医者に「心因性のもの」と説明されたり、周囲の人に「怠け病」と見られることもあります。ところが、2000年頃になって一部の医師が『重症の「むち打ち症」の原因の中に、髄液が漏れている「脳せき髄液減少症」がある』と主張し始めました。これをきっかけに、交通事故で「むち打ち症」と診断された被害者が、「脳せき髄液減少症」とみて加害者や保険会社と争う民事訴訟が、全国で相次いでいます。被害者側弁護士によると、『被害者側の勝訴判決はまだ少ないが、賠償額や加害者の刑事罰にも影響する』ため、各地の訴訟が注目されています。
「むち打ち症」は、痛みの原因が明らかでないのが特徴で、被害者が治療の継続や後遺症に対する補償を求めても認められにくいものです。自賠責の後遺障害等級では「後遺障害なし」か、一番下の14級(局部に神経症状を残す)程度で、詐病を疑われることさえあります。また、「脳せき髄液減少症」は学説の主流になっていないため、被害者と加害者側の間で、賠償をめぐる対立の原因になっています。
☆「脳せ書髄液減少症」の症状の出るからくり
脳とせき髄の外側には、硬膜という膜があり、脳は、硬膜の内側に満たされている脳せき髄液の中に浮いています。この脳せき髄液が事故の衝撃で、硬膜から漏れだすと、浮いている脳が下方に下がり、脳と硬膜をつないでいる血管や神経が引っ張られます。その結果、頭痛やめまいなど、様々な症状が現れると考えられています。
☆「脳せき髄液減少症」への治療法としてのブラッドパッチ療法
重い「むち打ち症」の患者に対する治療法は、これまであまり有効なものがありませんでした。しかし最近、「脳せき髄液減少症」が原因と思われる「むち打ち症」と診断された場合、ブラッドパッチ療法という治療法が有効である、と注目を集めています。
ブラッドパッチ法は、脳せき髄液の漏れを止める方法で有効だと考えられています。まず、自分の血液を採り、髄液の漏れている場所(硬膜の外側)に注射します。注入した血液はすぐに固まっていきます。この血のりの膜で脳せき髄液の漏れを止めるのです。こうした治療によって、漏れが止まると、下がっていた脳が元に戻り、症状が改善されると考えられています。
「ブラッドパッチ療法」には、『症状の改善には1人平均2~3回の治療が必要。患者の7割は症状が改善するが、痛みなどが完全に消えるのは極めて少数。』との報告もあります。
「脳せき髄液減少症」を念頭に診察する病院は、全国に30ケ所以上あり、既に2000人以上がこの治療を受けています。しかし、厚生労働省は「ブラッドパッチ療法の有効性、安全性は未確認」との見解で、健康保険適用を認めていません。
「むち打ち症」の症状がすべて「脳せき髄液減少症」が原因と言う訳ではないので専門医にかかって精査をうけ適切なアドバイスを受けるようにして下さい。