この度、不動産を相続することになりました。登記記録には所有者の氏名と住所が記載されると聞きました。私は犯罪被害に遭ったことがあり、加害者からの報復を避けるために現住所に転居しました。加害者に現住所を絶対に知られたくありません。何か良い方法はないでしょうか。
不動産登記による不動産に関する権利関係の正確な公示は取引の安全と円滑に資するものです。本年4月から義務化された相続登記申請や、令和8年4月から義務化される住所変更登記申請は︑この正確な公示に向けたものです。他方︑個人情報への意識の高まりや︑インターネットでも不動産の登記事項が閲覧できる環境下で︑取引の安全と個人情報の保護のバランスが︑より強く求められるようになりました。
このような背景を受け︑本年4月1日から登記事項証明書等における「代替措置」が講じられるようになりました(不動産登記法119条6項)。この「代替措置」とは︑不動産の登記記録に記録されている者(自然人に限ります)の住所が明らかにされることにより︑人の生命又は身体に危害を及ぼす恐れのある場合等一定の要件に該当するときは︑その者からの申出により︑登記事項証明書等に︑その者の住所に代えて公示用住所を記載する措置です。
代替措置の申出は︑登記記録に記録されている自然人のみが︑全国のどの法務局に対しても行なうことができます。公示用住所は︑申出人と連絡を取ることができる者の住所︑営業所︑事務所等(住所提供者の記名押印した承諾書と印鑑証明書の添付が必要です)であり︑法務局の住所を公示用住所とすることも可能です。
代替措置の申出書には申出人の印鑑証明書︑代替措置要件に該当する事実の概要を記載した書面(①加害者から受けた被害の日時︑場所及び態様︑登記記録に記録されている者の住所が公開されることにより更に被害を受けるおそれの内容及び当該おそれが生じる理由の詳細等を記載し︑作成者である申出人が記名押印または署名をした陳述書と︑②過去の被害の事実を裏付ける公的書面(市区町村によるDV等支援措置決定の通知書等)又は客観的書面(医師の診断書︑申出人に対する脅迫等を内容とする投稿時期が明らかなSNSの画像等))等の所定の書面の添付を要します。
相談者におかれましては︑相続登記申請と併せて代替措置申出をされることをお勧めいたします。