「隣家のビワの木」
隣家に生えているビワの木の件でご相談します。この木の枝が、私の所有地である自宅の庭に越境しています。越境している枝は勝手に切って良いものでしょうか。また、越境している枝に実っているビワは勝手に食べても良いのでしょうか。
越境しているからといって、直ちに相談者自らが枝を切除することはできません。まずは隣家のビワの木の所有者に、その枝を切除するよう求めてください(民法233条1項)。
枝の切除を求めてから相当期間(個別の事案にもよりますが一般的に2週間程度と言われています)内にビワの木の所有者が枝を切除しない場合には、相談者自らが越境している枝を切除することができます(同233条3項1号)。
また、隣家のビワの木の所有者又は所有者の所在が、一定の調査(これも個別の事案によりますが、一般的には現地調査、登記簿、住民票等の公的記録の調査を要すると言われています)をしても知ることができないとき、あるいは急迫の事情があるとき(例えば、強風で隣地のビワの木の枝が今にも相談者の建物に落下して建物が損傷しそうな場合等)には、相談者は自ら枝を切除することができます(同条3項2号3号)。
また、枝の切除をする際に、必要な範囲で隣地を使用することができます(209条1項3号)。
越境している枝に実っているビワの実は、枝と同様、直ちに相談者が切除することはできません。さらに、切除した枝に実っているビワの実については、民法には明確な定めがなく、悩ましいところです。相談者が越境した枝を切除した場合、切除した枝の所有権はビワの実と共に相談者が取得し、自由に処分できる(食べても良い)という解釈もあります。他方、枝を切除する前に、実が相談者の所有地に落下したときには「天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する」(89条1項)という規定に従い、ビワの木の所有者に帰属することになります。実が枝から分離する時期によって実の所有権者が変わる(枝の切除前に実が相談者の土地に落下すればビワの木の所有者、枝を切除したときに実が枝についていれば相談者)座りの悪さもあります。熟したビワの実は魅力的ですが、後のトラブルを避けるためには(特にビワの木の所有者が明らかであり、急迫の事情もないとき)、ビワの実は隣地に戻しておいたほうが安全かもしれません。