質問
先日、私の部下Aが、会社の取引先の情報等を含む機密情報を無断でA所有のUSBメモリに保存し社外に持ち出したうえ、帰宅途中に紛失するという不始末を起こしました。Aとしては勤務時間中に終わらなかった仕事を自宅に持ち帰る目的だったようですが、Aの行為は会社の就業規則上の懲戒事由に該当すると考えられるため、会社としてはAに対する懲戒解雇を検討しています。損害賠償請求をすべきだという意見もあがっています。アドバイスをお願いします。
回答
会社の機密情報は多岐にわたり、機密保持は会社の存亡にも関わる場合があります。社員の機密情報保持への意識を高めるためにも就業規則に機密保持義務を明記し、ご相談者の会社のように情報漏洩が懲戒事由にあたることを明記しておくべきでしょう。
但し、就業規則で情報漏洩が懲戒事由にあたると明記されていても、最も重い懲戒処分である懲戒解雇は、①客観的に合理的な理由、②社会通念上の相当性、がなければ無効とされますので注意が必要です。この①②は、漏洩が故意か否か、漏洩した情報の量や機密性の程度、社内の情報管理体制、漏洩の期間や回数、第三者への漏洩の有無、損害の発生の有無や程度、等から検討してゆくことになります。
また、手続的相当性も必要であり、対象社員に弁明の機会を付与しなければなりません。
A氏の懲戒についても、これらを総合的に検討し、例えば、自宅で行なう仕事に必要な範囲のみの情報を今回初めて持ち出した、社内の情報管理体制も厳密性に欠けているところがあった、紛失の経緯からみて第三者に情報が漏洩する可能性が低い、会社や第三者に損害が発生する可能性も低い、というのであれば、懲戒解雇は不相当でしょう。他方、従前から情報持ち出しを再三注意されていた、必要以上の情報を持ち出している、既に第三者に情報が渡っており、取引先や会社に大きな損害が生じる可能性が高い、という場合には、懲戒解雇が相当という場合もあり得ます。
実際に、会社に損害が生じた場合、会社からA氏に対する損害賠償請求が認められる場合もあります。但し、一般的に、いわゆる報償責任の観点から、社員から会社へ賠償すべき額はかなり限定されます(0~50%が多数)。情報管理、業務の監督や労働条件整備、加害行為の予防、損害拡大防止を会社がどこまで徹底できていたか等が判断要素になります。