Q.質問
私は関西在住の会社員(30代)です。先日、会社から、九州支社への配転命令を受けました。確かに会社の就業規則には配転に関する規定がありますが、私には妊娠中の妻と4歳の息子、そして要介護の母親がおり、転居を伴う異動は避けたいと思っています。会社は私の異動を強く求めていますが何とかならないでしょうか。
A.回答
長期雇用の労働契約においては、使用者に人事権の一内容として労働者の職務内容や勤務地を決定する権限が予定されており、多くの場合、これが就業規則の配転に関する規定となっています。但し、このような配転命令権が使用者にあるとしても、配転命令は業務上の必要性があって行われるべきものです。また、業務上の必要性がある場合でも、当該配転命令が他の不法な動機・目的をもってなされたとき、もしくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるとき等、特段の事情がある場合には、当該配転命令は使用者の権利の濫用にあたり無効とされるのが確立した判例です。
一般的に、当該配転に、労働力の適正配置、業務の効率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化等、企業の合理的運営に寄与する点が認められれば、業務上の必要性は肯定されています。
他方、配転によって当該労働者が負う不利益は、個々の労働者の事情によって異なりますので、これは個別具体的に検討する必要があります。また、使用者は、子の養育や家族の介護を行なっている労働者に就業場所の変更を伴う配転を命じる場合には、子の養育や家族の介護に配慮(具体的な配慮の内容は使用者に委ねられていますが)することを要します(育児介護休業法26条)。
過去の裁判例をみると、71歳の元気な母、保育所運営委員の妻、2歳の子がある労働者について、転勤によって生じる家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度であるとするもの(東亜ペイント事件)、精神病に罹患した妻の主たる援助者である労働者や、要介護の母の介護を自宅で妻と共に担っている労働者に対する遠隔地への配転命令は、配転命令権の濫用として無効とするもの(ネスレ日本事件)等があります。
ご相談者には、母の介護や子の養育の実態、単身あるいは家族で九州に転居した場合に生じる家族への悪影響、会社から得られる配慮の内容等から、転勤によって生じる不利益が通常甘受すべき程度を超えるものか否かを総合的に検討し、配転命令に従うか、配転命令の変更を会社に求めるかをお考えになることをお勧めいたします。