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冠動脈拡張症と急性心筋梗塞 ―カテーテル療法のみでは治療が困難―

 急性心筋梗塞は、動脈硬化で狭くなった冠動脈が血栓により閉塞し、血流途絶して発症します。通常の急性期治療法は、血栓を取り除き、血管の狭窄部分にステントを留置し、血流を再開させるカテーテル治療が行われます。ところが、先日、冠動脈の異常拡張を呈する冠動脈拡張症で急性心筋梗塞を発症した患者さんがおられました。冠動脈内の血流停滞により血栓が形成され、冠動脈閉塞をきたしたと考えられました。この症例では、通常の心筋梗塞と比較して血栓の量が多く、すでに血管が拡張した状態のためステントが血管壁に接着せず、通常のカテーテル療法のみでの治療が困難でした。

☆冠動脈拡張症
 日本人の冠動脈拡張症に関するまとまった報告は少なく、2004年に報告された論文(J Cardiol 2004;43)によりますと、冠動脈造影検査を受けた患者の1・4%で、それらの中で心筋梗塞が見つかったのが65%、狭心症が24%です。冠動脈拡張症での心筋障害の原因は、微少血栓による末梢塞栓と微小循環の障害とされています。冠動脈拡張症治療後の経過観察中の新たなイベント(心筋梗塞など)を発生する率は37%ですが、その内訳で拡張血管が原因になったのが62%あり、非拡張血管よりもイベントの発生の原因になり易くなっています。また、初回の心イベントから70%が4年以内に心筋梗塞を発症していると言う報告もあります。冠動脈拡張症では心イベントの再発の危険性が高く、厳重な管理が必要で定期的に冠動脈造影や冠動脈CTなどでのフォローアップが大切です。

 国立循環器病センターの研究チームは、冠動脈拡張症を有する急性心筋梗塞症症例に対して適切なワルファリン(抗凝固薬)の使用が有効である可能性を報告しています。研究チームは、冠動脈拡張例と冠動脈非拡張例に分けて分析しています。冠動脈拡張例でのワルファリン内服量が適切であった例(8例)と適切でなかった例(43例)を比較した結果、適切であった例での主要心イベント発生率は有意に低率だったと報告しています。

 最後に、冠動脈拡張症の診断でワルファリンの投与を受けていたが、注意を守らずワルファリンを自己中断したため急性心筋梗塞に至った1例の報告があります。患者さんは急性心筋梗塞で経皮的冠動脈形成術を施行され、冠動脈拡張症と診断され、以後アスピリンとワルファリンを内服していたが、ワルファリンを自己中断し、1ヵ月後に心筋梗塞を発症したものです。心臓カテーテル検査を受けたところ血管拡張部位に完全閉塞が認められ、血栓性閉塞による急性心筋梗塞と診断され、血栓吸引術を施行されました。冠動脈拡張症においては、一般的に考えられている粥腫崩壊以外、血栓ができ易く急性心筋梗塞を発症することがあるため、抗凝固薬の適切使用が重要です。

 冠動脈拡張症では、冠動脈拡張部との境界部に狭窄が見られ、心筋梗塞の責任部位となることが多く、拡張部に血栓が多量にできることが原因で心筋梗塞が発症し易いと言えます。よって適切な抗凝固治療と定期的な冠動脈映像検査が欠かせません。

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