近年、喫煙による第3者の健康被害に対する問題意識が一層高揚し、公共施設での完全禁煙が幅広く実施されてきました。言うまでもなく、喫煙者本人の健康も損ないます。喫煙者の禁煙治療に向けて、当院でも本年3月より保険適用による禁煙外来を始めます。今回は病気としての「ニコチン依存症」の治療について解説します。
☆禁煙治療は健康保険が適用されます
2006年4月より、禁煙治療が保険適用となりました。これは、喫煙を単なる習慣や嗜好と考えるのではなく、「ニコチン依存症」という病気としてとらえ、治療を行うという考え方です。保険治療は以下の条件を満たした喫煙者なら、どなたでも受けることができます。
〈保険適用の条件〉
1.1日の喫煙本数×喫煙年数(=ブリンクマン指数)が200以上の方
2.ニコチン依存症スクリーニングテスト
(TDS)で5点以上の方(別表①)
3.すぐに禁煙することを希望している方
4.禁煙治療を受けることに文書で同意している方
☆新しい禁煙補助薬
「チャンピックス」錠の特徴
発売されている貼るタイプの薬(禁煙パッチ「ニコチネル」)や、ニコチンのガム(「ニコレット」)は、ニコチンを含んでおり、禁煙でニコチンの離脱症状が生じるのを和らげて、禁煙を助けます。
一方、「チャンピックス」錠には、ニコチンはまったく含まれていません。ニコチンの代わりに脳にあるニコチン受容体という部位に結合して、快感を生じさせる物質(ドパミン)を少量放出させるため、禁煙時にあらわれるイライラなどのニコチン切れ症状を軽くします。また、禁煙中に喫煙してしまったとき、ニコチンがこの受容体に結合するのを邪魔して、タバコがまずく感じます。
☆「チャンピックス」錠による治療が
妥当と考えられる人
・ ニコチンパッチで禁煙に失敗した人
・ 狭心症・心筋梗塞の恐れのある人
・ 心筋梗塞の再発リスクが高い人
・ 重症心疾患の人
・ 脳心血管疾患の急性期にあたる人
・ 重篤な不整脈症状がみられる人
・ たびたび禁煙に失敗した人
これらの人は、「チャンピックス」錠による禁煙治療の効果が期待されます。
現時点では催奇形性に関しての安全性は確立していませんので、妊婦あるいは妊娠している可能性がある場合は投与を控える立場をとっています。
☆「チャンピックス」の標準禁煙外来治療
プログラムについて
さて「チャンピックス」による禁煙治療は、どのように行われるか、標準的なプロセスをご説明します。 標準的禁煙治療プログラムは12週間(3ヶ月)で5回の禁煙指導・治療を行います。飲み方は、以下のように段階的になっています。
・第1~3日目は0.5mgを1日1回食後に服用
・第4~7日目は0.5mgを1日2回朝夕食後に服用
・第8日目以降は1mgを1日2回朝夕食後に服用
治療は、12週間(3ヶ月)継続します。
「チャンピックス」は、前述の保険適用条件を満たしていれば、12週間まで保険適用され、3割負担で服用することができます。さらに、禁煙に成功した患者では、長期間の禁煙をより確実にするために、必要に応じて追加で12週間延長することができます。ただ、この追加の12週間は、自費となります。
最初の12週間の治療期間で禁煙に失敗し、再度チャンピックスを服用したい場合、1年以内に再開する時は全額自費になります。最初の受診日より1年以上経過すれば、再度保険適用で服用できます。
☆禁煙治療費用の目安は?
標準的な禁煙治療に要する治療費の目安は下記の通りです。
ニコチンパッチよりも費用はかかりますが、禁煙成功率やニコチンガムが不必要なこと、今後タバコ代がいらなくなることを考えれば割安かもしれません。